2-11 土壌の可給態窒素PEON(ペオン)
土壌の可給態窒素(地力窒素)の評価は、土壌を一定期間培養して土壌中に生成される無機態窒素量を測定して行われます。培養法は時間がかかるため、もっと簡便な方法がいくつか提案されています。その一つに樋口112)が開発したリン酸緩衝液抽出法があります。佐野90)は、日本の農耕地土壌147点について様々な抽出法を検討し、このリン酸緩衝液抽出法が窒素の無機化を評価する方法として好適であると述べています。この、リン酸緩衝液で抽出される可給態窒素の本体と考えられる有機態窒素は、PEON(ペオン)と呼ばれています2)。PEONとは、リン酸緩衝液で抽出される有機態窒素:Phosphate-buffer Extractable Organic Nitorogenの頭文字をとってPEONと称されています。本章の冒頭、スライド21でみた土壌中の蛋白様窒素とは、リン酸緩衝液で抽出される有機態窒素(PEON)の量を蛋白質に換算した数値です。
スライド21でみた菜種油かす施用土壌において、植物が土壌中から有機態窒素を吸収していると考えられる2つの例では、土壌中に窒素吸収量を支えるに足るアミノ酸量は存在していませんでした。有機態窒素を好んで吸収する植物が窒素栄養として利用していたのは、このPEONであることが証明されています。PEONが根圏で遊離した後、根圏微生物によって無機化されたことで吸収された可能性はないのか? 無機態で吸収さられるなら、化学肥料によって生育が促進されるはずです。しかし、スライド21でみたロザムステッドでのテンサイの例やホウレンソウの例では、そうではありません
でした。山縣ら114)は、有機態窒素に高い反応性を示すイネの根圏のプロテアーゼ(蛋白分解酵素)活性は、有機態窒素に反応しないトウモロコシより低かったと報告しています。有機物施用土壌で栽培したホウレンソウの導管液にPEONが検出されたこと、抗PEON抗体に導管液が明瞭に反応したこと、精製PEON溶液で栽培したチンゲンサイの主根断面を抗PEON抗体で染色し、顕微鏡で観察したところPEONもしくはその断片が根の表皮に存在しただけではなく、細胞間隙を通して根内に取り込まれている様子が観察されました。チンゲンサイに精製PEONだけを与え、無機態窒素より生育が勝っていました2)。以上のことからPEONは植物に直接吸収されていると考えられています2)。 |