2-10 土壌の可給態窒素
植物が吸収している土壌中の有機態窒素化合物は何か?このことに迫る前に、土壌に有機物が施用されたとき、含まれる有機態窒素が無機化されるまでの様子をみてみましょう。図30-1はC/N比の異なる有機物が土壌に施用されたときの無機態窒素生成を経時的にみたものです。これは、第1章でみてきた無機化試験に他なりません。有機物は微生物分解を受けますが、その中の炭素(エネルギー源)と窒素を利用して微生物の菌体が構成されます。窒素が不足すると土壌中の無機窒素まで利用するために「窒素飢餓」が起こります。有機物(エネルギー源)がなくなると、菌体自身が自己消化を起こし、最終的には無機態窒素として放出されます。C/N比が大きいほどエネルギー源が大きく、一定の窒素で増殖した微生物は死滅と増殖を繰り返し、維持され、無機態窒素の放出は遅れ、窒素飢餓状態が長く続くことになります。窒素を含む有機物が土壌に施用されて放出される無機窒素量は、同量の化学肥料(無機態窒素)を超えることはありません。
丸本111)は、植物残渣を土壌に添加して半年間培養し、土壌固有のアミノ酸組成に近づくとともに微生物細胞壁のアミノ酸組成に極めて近似していたと報告しています。植物残渣に含まれる有機態窒素は、無機態窒素に移行する前に、一旦微生物菌体の一部として土壌に蓄えられます。いわゆる「可給態窒素」と言われているものです。ミューラーらは、有機物を施用すると微生物バイオマス(生きている微生物の存在量)が急激に増大し、その後バイオマスの減少(微生物の死滅)が起こっても、それに見合う無機態窒素は放出されてこなかったとしています2)。菌体が死滅し分解されても直ぐには無機化されることはなく、相当量の菌体残渣(分解されにくい細胞壁物質)が土壌に貯留されます。この貯留物は土壌中のアルミニウムや鉄と反応して、より安定化した形で蓄えられていると考えられています113)。そして、一部はゆっくりと分解され、無機態窒素として土壌に放出されます。その様子を概念的に示すと図30-2のようになります。 |