4-7 水ストレスは作物に何をもたらすか
水分ストレスが作物の品質に密接に関係していることが分かりましたが、低水分下におかれた植物体内では、いったい何が起こっているのでしょうか?スライド39と40では、有機物(有機質肥料)の施用が、土壌の水分状態の安定に大きく関わっていることを見ました。水ストレス下にある植物の生理について、森の著書51)からまとめてみました。
低水分ストレスは植物体中の蛋白含量を低下させますが、これまでに得られた知見によれば、蛋白質の分解ではなく、蛋白合成が阻害されるためだと考えられています。
低水分ストレス下の植物体内では、不溶性糖(澱粉)の分解が起こります。その結果、可溶性糖(グルコース、フラクトース、シュクロース)の増加が起こります。さらに、細胞内のミトコンドリアの構造破壊による呼吸の抑制が起こります。これは、TCAサイクルの回転阻害であり、TCAサイクルが低下することは、ATPの生産を低下させるため、TCAサイクルの手前にある解糖系の進行も抑えられることになります。そのため、解糖系の入り口に位置するグルコースやフラクトースが代謝されないで溜まってくると考えられます。ミトコンドリアの構造破壊によって、アミノ酸の一種であるプロリンのグルタミン酸への酸化が進行しなくなり、プロリンの集積が起こってきます。水ストレスによるミトコンドリアの構造破壊の結果、糖やプロリンの集積が起こることは植物にとって否定的な出来事のように感じられますが、見方を変えれば水ストレスに対する植物の側からの巧妙な適応現象と考えることができます。水ストレス下にあっても、植物はその生命活動を維持するために、根から土壌水分を吸収しなければなりません。高い水ストレスで植物体に誘導的に蓄積されてくる糖やプロリンは無毒で、細胞浸透圧を高めることで低水分土壌からの吸水を可能にしていると考えられます。 |