一口に有機質肥料と言っても非常に多種多様な有機質肥料が流通または現場で使われています。有機JAS規格には明らかな無機肥料も含まれています。肥料取締法に基づいて制定された普通肥料公定規格では、有機質肥料は動植物に由来する肥料に限るとされています。近年、家畜糞などは植物に対する養分供給能力が評価され、有機質肥料として扱われることが多くなってきました。一般には草木灰や鶏糞焼成灰なども有機と見られていますが、化学的見地からすれば無機と見るべき物です。本講座では、普通肥料公定規格には囚われず、一般的に有機質肥料とされている肥料を対象とし、家畜糞は原則除外しました。
「有機農業」という言葉が生まれたのは1971年で、その後徐々に有機農産物指向が広がりました37) 。有機質肥料は、一部の生産者や消費者に熱烈に支持されています。消費者の指向は科学的根拠によるものより「健康・本物」といったイメージ先行型になっているのではないでしょうか37) 。確かに有機質肥料には優れた性質があることは事実です。しかし、ややもすると盲目的に支持されていたり、科学的には怪しいこともあるように感じています。客観的に証明されていなくても、生産者にもメーカーにとっても耳障りがよく、何かと好都合な解釈が横行していることもあるのではないでしょうか。「有機は安全で良いもの、化学肥料は悪いもの」「有機農産物は安全で身体に良くて高品質、化学肥料農産物は品質が悪く身体にも悪い」こういった見方は明らかに間違いです。
長所も欠点もあるのが有機質肥料ですが、いわば“レフェリーのいる”学術文献から有機質肥料について客観的に考察し、有機質肥料の特性を明らかにしようと試みました。筆者の力量を遥かに超る内容であり、未熟さ故の間違いや解釈の相違等があると思います。諸氏からのご批判等を頂戴できれば幸いです。
個々の有機質肥料の性質等については別に執筆したいと思っています。
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